イギリス戦後の教科書企画
月末締め切りのこの原稿の準備を昨日くらいから。議論の骨子は大体決まっている。優れた研究書のある1章の内容をわかりやすく解説するという形で、オリジナルの議論を一から構築するというわけではないが、いざ書き始めてみると教科書ということもありいろいろ面倒なこともあるだろう。戦後イギリスの「福祉国家体制」におけるmotheringの重視というか強調に多大な貢献をしたクラインの流れをくむ精神分析――WinnicottとBowlbyが代表的な存在なわけだが――の即物的な「母」の重視、母子のseparationが甚大なる心理的な悪影響を及ぼすという説が本格的に「戦後」組織化された重要な契機として「戦中」におけるevacuationを挙げることができるみたいだ。その極論においては「育児放棄やら虐待」があっても子供は母親といるほうが生物学的に「自然=健全」である――これなどがBowlbismの真骨頂である。まあこうした流れの背景には、「戦間期」におけるfemale emancipationとそれを結果的には加速する「戦中」のevacuationへの反動ということもあるのだろう。「ブルームズベリ」の初期の受容を担ったAlix StracheyなりJoan Riviereにとってはこのfemale emancipationという脈絡が重要であったことを考えると、そこには真のクラインのメタ心理学的洗練とその語のpopularisationという物語が浮上しがちであるが、参照するDenise Rileyはそこら辺は大変微妙な議論をしており、Juliet Mitchellのざっくりした議論と一線を画している。RWの翻訳は遅々として・・・。
明日はいよいよ学魔降臨の日である。再宣伝を:
日時:2010年3月13日(土)15:00〜18:00
場所:成蹊大学3号館 101教室
〈講演概要〉カリスマ高山宏、30年にわたる英文学研究を総決算(今年の総括講演企画の第一弾)。いくつかの大学改革の中で英文学から表象論・精神史・文化史の研究・教育へと舵を切った過程を「視覚文化論」の名でまとめながら、それが英(米)文学研究をどう変え得るか話す。具体的にはジョン・ダンとヴンダーカンマー、スターンと時代の壁紙デザイン、E・A・ポーとピクチュアレスク、漱石と観相学、他。
高山宏氏プロフィール
1947(昭22)年生まれ。批評家。翻訳家。明治大学国際日本学部教授。研究テーマ
ヨーロッパのVisual culture 全般。現今のsubcultureの源流とも思われる17〜19世紀の視覚文化史・映像論の中の日本。著書
『アリス狩り』(青土社1981)『目の中の劇場』(青土社1985)『ふたつの世紀末』(青土社1986)『メデュー サの知』(青土社1987)、『世紀末異貌』(三省堂1990)『痙攣する地獄 FANTASMALII』(作品社1995)『庭の 綺想学 近代西欧とピクチャレスク美学』(ありな書房1995)『綺想の饗宴』(青土社、1999)など多数。
この講演会は、成蹊大学研究助成「歴史のなかの絵画」の共同研究の一環として開催します。学生、教職員、一般の方、講演内容に関心のある方ならどなたでも歓迎します。ふるってご参加ください。
キャンパス案内:http://www.seikei.ac.jp/gakuen/campus_uni.html
問い合わせ先:文学部・庄司宏子(hirokoshojiアットfh.seikei.ac.jp)「アット」は@にかえてください。
しかし来週はゼミの追いコンやら卒業式やらでここしばらくの静寂がなくなるなあ。