蟄居は続く

例の原稿のため蟄居の日々。外は晩秋から初冬の感じ。昨日は雨模様だったが今日は日本の11月末のような晴れ。どこか公園にでも散歩に行きたいような空気。原稿思いのほかに難渋。学部生でもわかるようにというお題なので。日曜の未明までに終わらせないと。つぎの仕事が待っている。土曜の深夜にFilm 4をなにげにつけたら小津の『一人息子』をやっていた。途中からでも観る。小津の戦後はほとんどすべて観ているはずだが、戦前には未見のものがある。そのうちの一つ。昭和11年だそうである。変な言い方だが戦後の小津のモティーフがすでにたくさんある。しかし飯田蝶子演じる「お母さん」のイメージって、小生の年齢がぎりぎり経験しているのではないか。着物を着たあの感じ、戦前の日本の母親の律義な価値観というのは、明治生まれの祖母の記憶と少々つながる(ちなみに飯田蝶子の誕生日、小生とまったく一緒みたいだ。ちなみに昭和11年は小生の母の誕生した年でもある)。最後の場面の飯田蝶子の表情は『東京物語』のそれの笠智衆とはるかに呼応する(トンカツ屋となった元先生の笠智衆支那そば屋になった『秋刀魚の味』におけるもと漢文教師の東野英治郎ともはるかに呼応する)。しかしあの息子(日守新一)夜学の教師から転職するためにこれから一念発起して勉強をする覚悟なのだが、あれが昭和11年だとすると、彼はほぼ確実にその後兵隊に取られかなりの確率で戦死する可能性が高いなあ。そんなその後を予感させる時代の閉塞感が空気としてある。毎年秋になると小津を「再読」する習慣があるのだが、それは今年は無理だ。

一人息子 [DVD] COS-016

一人息子 [DVD] COS-016