仏語的deafness

午前中は子供の授業参観。1年坊主はなかなかorganiseされていて担任のサトウ先生に頭が下がる。わが子のパフォーマンスとしてはオヤジの資質がやはり継承されていて、おしゃべり、自意識過剰、律儀などが顕著だが、まあまあまともにやっていて安心したり。しかし横浜の公立小学校って冷房がない。仄聞するところによると東京はみなあるそうだ。それに横浜って公立中学に給食もない!学童保育が親による運営など東京では考えられないそうだ。しょせん神奈川=田舎とかいったらいけないが、しかし市民税が高い割にはこれはヒドい。だいたい今の市長からして徹底的に気に食わぬ。最近なかば本気に杉並復帰を考えてきた。ふざけるな!!横浜市

昼に帰ってきて腹がすいたのでオムライスなどを調理して食しその後少々の午睡。その後はディスカサント@駒場の読み原稿の微調整。ウルフからの引用を一個増やし英語表現などを推敲したり。メランコリー/享楽ということがラカンになるとéclat(閃光=破片)という概念系を通じて光学系あるいは視覚系つまりは「まなざし」なり「ヴィジョン」という主題を組織することになり実際にジュランヴィル教授の話の流れはそうなるが、同じメランコリー/享楽でもクラインではまさに「糞を食らう」話になる次第で、『意味の論理学』のドゥルーズのしたがえばそこで言語が生成することになる。なので戦略的な(と同時に優秀な専門家を前にラカン的な洗練で語るのはいくらなんでもキツいので)アンチノミーとしてクライン的なヨダレ糞尿系のliteralnessを対置した次第。まあどうやらどうにか議論を誘発することにはなったようで、ジュランヴィル教授からも誠実な応答がある。少々誠実すぎる応答であったのだが、聴衆の一人でらしたK林先生がそのアンチノミーをさらに突っ込んで議論を展開しようとされ(実は仏語で聴いているときは分からなかったが、腹先生の通訳やそのあとの説明で理解する)小生の意図が奏功したのかもとか思い肩の荷が下りる。さすがK林先生。あとは最近『表象』とか『現代思想』でご活躍のオリジナルなドゥルージアンのC葉さん@UTCPからも刺激的な応答が。ジュランヴィル教授の応答のなかでラカンのクライン評として「すべてを想像的なレヴェルで思考した」という例の発言が引用されたので、少なくとも20年代の初期クラインの理論では想像的なprojective identificationは根源的な外傷性=不可能性に駆動されているのであり、クライン的な幼児はいわばすでにつねに「去勢」されているとお答えした。クライン的乳児は母を享楽することが不可能である。するとC葉さんがそのクライン理解に同意しただけでなくまさにその想像的なものと現実的なものの絡みは70年代以降のラカンの「享楽」という問題系と繋がるのではという刺激的なコメントがあり若干興奮したりとか。この文脈で語り残したのはfemale homosexual melancholiaということで周知のようにこれは精神分析の鬼門というか「臍」であるが、クラインならばfar more sadisitic/devouring femele superegoという話になってなんというか臨床的な不可能なリビドー的強度に眩暈をもよおす(非)世界なのだが・・・。

と書きながらも当日の質疑応答はほぼすべてフランス語!無知蒙昧で野蛮なアングレ系の小生は口をあけてほぼ完全にdeaf状態に。といいながらもジュランヴィル教授が小生の目をご覧になって語りかけてくるときには条件反射としてうなずいてしまう浅ましさ。しかしラカンを中心とした精神分析/哲学系の話をしながらフランス語が飛び交い英語しか解さない人間が孤独を強いられる環境はしごく知的に健全であるとか、やせ我慢として思ったり言ったり。じつに浅ましい。

最近「モダニズムと(反)自伝」というテーマで論文を 'Sketch of the Past' でお書きになったN井さんとその後で立ち話しながら(このテクストはこの日の最重要なもの)基本的にクライン的なメランコリーが濃密なウルフという作家において「ヴィジョン」ということが殊に特権化されるこの(反)自伝としてのテクストのエクリチュールについてあらためて考え、やはりクラインとラカンのintertextual dialogueということが肝であることが再認識された次第。N井さんの議論ではウルフが同時代のフロイトのテクストに対してとった微妙なスタンスが問題となっており刺激的。

会の終了後はいつもの駒場の居酒屋で生ビールと冷酒とか。やはりdeaf状態に。ジュランヴィル教授(夫)からお前は本当にフランス語を一語も解さないのかとたずねられ「私はフランス語を話せない」とフランス語で言おうと思ったけどあまりに浅ましいので自制。久しぶりに会ったフランス帰りのK並氏に通訳をすべて任せる。

翌日1時限@吉祥寺なので東急インに宿泊。途中久我山にお住まいのC葉さんと神出鬼没のN村氏と久我山の居酒屋で痛飲。小生、久我山の産なのでなんというかun/heimlichな安吾@新潟のような気分に。零時には投宿。完全に爆睡。しかしこの仕事わりとプレッシャーだったのでかなりほっとする。

意味の論理学〈上〉 (河出文庫)

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意味の論理学 下

意味の論理学 下