鍼灸は最終審級ではないのか?

どうも研究室での爆睡時の姿勢――椅子に座りながら思い切り後ろに反り返り口をアングリ開けたままという――がいけなかったのだろうけれども、首から背中への違和感(一時は激痛)についに耐えかねて近所の鍼灸院の世話にここ数日なる。初体験である。当初の激痛はかなり緩和されたが、違和感はやはり残っており、それにどうやら(素人的には)骨が少々ズレたかもしれないという気もするので明日はこれも近所の整形外科に行くことにする。しかしまあ両手でキーボードをようやく叩けるまでには回復したのは結構だが、まだ首を上に上げきると少々不自由な感じがある。そんなこんなで1日の教科書会議はビミョーだなあ。しかし私のセクションの担当のSさんは仕事の催促に関しては「迂遠なこと」をお嫌いでいらっしゃると自覚し、夜の研究室でどうにか宿題の「企画書」を次のように作成する。

クライニズムと福祉国家、あるいはメタ心理学から育児書へ

遠藤 不比人
第二次大戦後のイギリス的「福祉国家」における「母」をめぐる言説とイギリスの精神分析クライン派の理論)との相互関連性に注目しながら、ラディカルなメタ心理学が極端に言えば「育児書」的イデオロギーに回収される――と同時にそこから逸脱しもする――テクスト的な事態を前景化し、この時代の文化の一面を明らかにする。その過程でおもに以下のような点――1「母と子」の「対象関係」を前景化するクライン派精神分析が、戦後イギリスの「母」という主体形成にいかなる意味を陰に陽に帯びていたのか(ちなみに現在日本で保育士の資格を得るためには「対象関係論」はそのカリキュラムにおいて必修の文献であるらしい)2「育児書」的言説のイデオロギー性 3「母」の身体へと馳せられる権力の視線、など――を強調することで、たとえば潜在的な顧客としては、ちょっとばかり心理学に興味があり、しかもナイーヴな結婚願望なぞを抱いている善良かつ凡庸な女子学生に「文化研究」というものがどういうものなのか、骨身に沁みて分かっていただくことを主要な目的とする。と同時にクライン派のテクストがこういった読解に回収できない或る過激さを帯びていることを少しばかり示し、文化研究の知的醍醐味に関してもこれも少しばかりの疑似体験をしてもらいたい。

References (in order of relevance)
Denise Riley, War in the Nursery: Theories of the Child and Mother (Virago, 1985).
−− Am I That Name: Feminism and The Category Of Women In History (U of Minnesota P, 2003).
Mary Jacobus, The Poetics of Psychoanalysis: In the Wake of Klein (Oxford UP, 2006).
Joan Raphael-Leff et al. ed., Female Experience: Three Generations of British Women Psychoanalysts on Work with Women (Routledge, 1997).
Lynne Layton, Psychoanalysis, Class and Politics: Encounters in the Clinical Setting (Routledge, 2006).
Becky Conekin et al. ed., Moments of Modernity: Reconstructing Britain, 1945-1964 (Rivers Oram, 1998).
Pat Thane, The Foundations of the Welfare State (Longman, 1985).
Louise Braddock et al. ed., The Academic Face of Psychoanalysis: Papers in Philosophy, the Humanities, and the British Clinical Tradition (Routledge, 2007).
Lyndsey Stonebridge, The Writing of Anxiety: Imagining Wartime in Mid-Century British Culture (Palgrave, 2007).
斎藤環『母は娘の人生を支配する―なぜ「母殺し」は難しいのか』(NHKブックス、2008年)。

1月のシムポでこのテーマを加速させる目論見だがどうなるか。

追記:最近いくつかのきっかけから佐藤優の一連の著作を未読であるのはやはりとりあえずイカンと思い出した。まあいまのところ未読なので予見しかないのだが。