11月の総括

前にも書いたが10月が過酷な分11月はダレでしまった。というか一種の鬱状態に突入の寸前にどうにかこれまでの経験則というか生活の知恵でどうにか乗り切ったのか、この月を。在外で時間があるのに鬱なんて贅沢だというありうべきご指摘はごもっともであるが、それだからこそなるのですよ、というのがじつは真実でもあるのかもしれない。ただ前回の在外では40そこそこでまだ若かったので、その分自分への要求と期待が大きかったのだが、さすがに50を越えると特に英語を通じての知的活動の自身の限界に対する見極めみたいなものができているような気もするのだが、小生の超自我はそれほど甘くないのか、11月に小生を責め苛んだのかもしれない(「もっとやれ!もっとできる!」)。

で、結局この時期に身をいれて読めたのは、Raymond Williams Border ConutryFreudの一連の著作をStandard Editionでいくつか(Group Psychology and the Analysis of EgoWalesの前に再読できなかったので)、Three Essays on the Theory of Sexuality、'The Psychogenesis of a Case of Homosexuality in a Woman', 'The Economic Problem of Masochism'など)と、今週の木曜日のセミナーのspeakerの著書である次の本とか:

Lacan: A Beginner's Guide (Oneworld Beginner's Guide)

Lacan: A Beginner's Guide (Oneworld Beginner's Guide)

以前にも紹介したが、読後感としては、これは小生がこれまでに読んだラカンの入門書の中ではおそらくはもっとも明晰でかつ痒いところに手が届くような本であり、要翻訳だと思う。著者はフランス語が母語だが現在Psychoanalysis Unit にも所属し、イギリスで臨床を実践している。少々面白かったのは、この方小生の例のJuliet Mitchellゼミのプレゼンに出席しコメントをくれたのだが、少々早めに席につき小生作成のハンドアウトをご覧になり笑っていたのでどうしたのかなあ、と思っていたら、RiviereのいかにもKleinian的な箇所がいかにもbiologismであるということで思わず微笑まれた由。このこととこの著作の明晰さとは連続していると思う。小生がプレゼンでKleinのLacan以後の可能性の中心みたいな話をJacqueline RoseとかMary Jacobusとかにちょっと触れながら問題にもしたのだが、その点に理解を示しながらもかなり反論していたよね。Mitchell先生もI like this kind of dense paper very muchとかおっしゃりながら、KleinのbiologismとFreudを峻別する方向へ話を最終的にはもっていったっけ。そこに十分に介入できなかったのは修行不足であって、これは日本語であってもいまのところは無理かもしれない(以前にこの線で書いた論文は基本的に葬っている状態だし)。木曜日のゼミでは例のsexuationの話だったが、この本の当該箇所と並べると例の図式への理解が一歩先に行く感じでなかなか役に立った。

一方で前にも言ったがこのStandard EditionでFreudを読み直すと、フロイトの「古典性」ということを痛感もする(二重の意味でね)。ともかくこれを骨肉化して自家薬籠中にしていないと仕方がない。

それ以外でも刺激的なイヴェントがSonuゼミでいくつか。とくにニーチェの講義をしてくれているMartinとDeeとの競演でのmasochismのセミナーは狭くフロイト精神分析を越えた世紀転換期の精神史にもなっていて、これは勉強になる。ということでこの時期は週に3回程度のreading group系のイヴェントとその後の飲み会などで鬱を解消しながら(やはり人と話しているとちょっとはちがう)同時に宴会 in Englishはとてもenjoyableであるが、その分翌日に持ち越す疲労も大きく、またかなりの飲酒量にもなるので、その二日酔い的な鬱と基調をなす鬱の相乗効果でかなりヤバいところまでいった。

土曜日はThe Spiritualist Association of Great Britain(!)での降霊術的なイヴェントにSonuゼミの面々と参加予定。言うまでもなく19世紀から20世紀にかけての心理学の歴史を研究しているのならば、この辺はスルーできるわけがない。さてどんなことになるのか。乞うご期待。

そういえばこんな本(『文学研究のマニフェスト』)がそろそろ出ます。アマゾンはまだなので、研究社の近刊のリストを:

http://www.kenkyusha.co.jp/purec/

よろしくお願いをします。

これとは関係ないが、個人的には最近の円安傾向に腹を立てている。